今回は2021年5月29日に実施した彩なす家オンライン読書会お試し版課題本読書会のお話。課題本『消滅世界』に読書会の前と後に触れてみるという初の試みです。
課題本読書会の面白さを伝えるには実際に書き出しておいた方が分かりやすいんじゃないかなーと思い、実験的にやってみようと思いました。おお、こんな風に変わるのか!みたいな感じで、前後編お読み頂けましたら幸いです。
■課題本読書会前の記事はこちらですので、先にこちらをお読みください。
https://iro-doku.com/archives/9758
さて、今回はせっかくなので課題本読書会に挑む前の事前準備についてお伝えしたいなと思います。とはいっても、彩ふ読書会・彩なす家オンライン読書会の課題本読書会の参加条件は「課題本の読了」のみですので、とりあえず最後まで読んで頂けたら何ら問題ございません。読了についても、作品によっては最後まで読めないものもあると思いますので、どーしても無理だって思ったら読めなくても大丈夫です。何故読めなかったのか、みたいなところをお話いただけるとこれもまた興味深かったりします。
これまで課題本読書会には何度か参加していて、実際今は主催もしていますが、読み方についてはまだまだ試行錯誤が続いています。これ!といったスタイルが確立できていません。ですが、個人的には一つだけ意識していることがあります。
それは、「読書会前に作品レビューはなるべく読まないようにする」ということです。影響されやすい人間なので、レビューを読むとそのコメントに影響されて、さも自分の意見のように言ってしまうことがあるからです(^^;)
読書会に来られる方は、レビューを聞きたいわけじゃないんじゃないかなと思います。それならばネットで見れば良い。それよりも、あなた自身の言葉が聞きたい。あなたの生き方と作品がどのように結びつき、混ざり合うのか、そんなところを知りたかったりします。
読んで感じたことに間違いなんてありません。
ぜひ、ご自身の言葉で感じたことを伝えてもらいたいなと思っています。
って書いておきながら何ですけども、作品によっては先にレビューを読むこともあります(どっちやねんですな!)たまに、これはどういう話なんだろう?と、わけがわからなくなって途中で読むのをやめたくなった時なんかは、先にあらすじやレビューを読んだり、漫画や映画があれば先に触れたりもします。読み方にも間違いなんてないと思いますので、お好きなように読んだらよろしいかと思います。
では、課題本読書会後の『消滅世界』に触れていきましょう。えー、こほん。あ!ネタバレしますので、『消滅世界』をこれから読む予定の方はバックバック!
――――――――――――ここからネタバレ―――――――――――――――――――――――
やはり面白かったです、消滅世界の課題本読書会!!!
実に様々な意見を聞くことが出来ました。
今回は私を含めて11名の参加でした。普段なら2グループに分かれるところですが、お試し版のうちに大人数Verもやっておきたいと思い、グループ分けはしませんでした。結果、やはり今後はグループ分けした方が良いな!とは思いましたが、今回に限っては全員で出来て良かったなと思いました。
音声トラブルがあったためメモをして頂くことに。チャットログがありますので、まずは皆さんから出たご意見を以下に貼ります。
・おもろいですね! 常識が覆される感じ。 引っ掛かりまくってなかなか読み進められない。 どのキャラも好きじゃないんですが(笑) グニャグニャした世界が村田沙耶香さんの特徴なのかなと思いました。 恋愛という宗教、家族という宗教に不気味さもありつつ印象的でした(これ私です)
・一言でまとめるのは難しいんですが…… 千葉の実験都市に不気味さを感じた。 恋愛のせいで半年大学に出てこれなかった、婚活に疲れた、みたいなことはこの本の世界にはないんだろうなと思いました。 主人公の母親に同情。あの世界にいたから迫害されたが、現実の世界だったらそんなことはなかったはず。
・ラブホテルはこの世界では経営戦略を変えないといけない。
・なぜ千葉?埼玉ではダメ?
・文庫版表紙の女性の背中から背骨のようなものが伸びているのは、どういうモチーフ?
・「なんだこれ!」な感想 いろいろなものが決定的に合理化された世界 家族、恋人、性欲、子作りがバラバラにされて、一個一個が合理化されている なぜ結婚するのかを尋ねるエピソードが印象的。 千葉に行った後のエピソードは「なんかいやだ」と感じるが、なぜ感じるかがわからない。
・千葉の実験都市での生活に娯楽や愛はあるのか?
・こどもちゃんは未来の納税者
・こどもちゃんは未来への希望のはずなのに、それへの違和感があり、それを口にするのはなんかはばかられる雰囲気
・<「気持ち悪さ」の正体> ・雨音は各要素を持っているキャラだが、だんだん一つ一つ外していく
・性欲とセックスを分けてしまっていることに気持ち悪さがある
・要素を無理に外してしまっているところに気持ち悪さがある
・村田沙耶香さんの作品は最後がエグイ
・クリーンルームに2分でなく3時間居たい気持ち
・主人公が苦手。「そういうの変だよ」と言ってくるタイプ。 樹里の台詞「大切なものは他人に見せると簡単に踏みにじられるから気を付けなさい」が印象的。 実験都市に入ってからついていけなくなった感じ。でも完全な平等とはこういう感じ? この世界での仕事とかお金の話があまりなく、もっと読んでみたかった(キャラクタービジネスとか)
・この世界の「みんな同じ」につまらなさを感じる
・マイナスの感情を体験することがないこの実験都市からは小説家は生まれない
・千葉の実験都市に「昆虫」っぽい生き方を見た。 悩みをなくすための方法の一つの可能性がこの小説の世界? 「正常」「普通」の価値観に縛られることがもどかしい。
・アメトークの「生きづらい芸人」の話
・「正常」でない人を笑っちゃうことはあるのかもしれない。
・読み終わったときに、衝撃を受けすぎて細かいことを忘れてしまった
・これは我々の近未来だと思った。 組織の中で「異常」とされる者は実は「正常」なのかもしれない。 「常識」は常に変わるのに、「常識」を持たない人をおかしいと言ったり、その人に対して優位性を感じたりすること。
・哲学書を読むのに近い頭の使い方をしました。 読んだ後、テレビなんかを見ているときに「あれ、つながっちゃった!」という感覚 「常識」に抗おうとする感覚が自分にあったことに気づいた(スマホなんか持つもんか!)
・周りを気にし過ぎずに、自分の好きな人とだけ付き合えばいいのに
・でも土足で踏み込んでくる人もいる
・思ったよりもサラサラ読めた。 この世界ならLGBTの問題も解決するかも。 二番目の夫は共感性が強い人。 千葉に行ってからなじむのが早すぎ 子供は白、親は青、雨音は赤 雨音とこどもちゃんのセックスの後、二人は楽園から追放される?
・この世界はユートピアなの?
・「あんたたちの言うユートピアってこういうことだけど、こういうのでいいの?」と作者が読者に突き付けている?
・子育ての分業問題
・許容する余裕がなくなってきているので、タブーと思われることを議論することが許されなくなってきている
・「女性が書いた小説だな」というのを読んでいてずっと感じていた この世界はひとつのユートピアであるなと感じた。 「そんなみんな恋愛ばっかり気にするの?」と思った 最後の雨音とこどもちゃんのセックスのシーンは性別が逆なら発禁もの 原始時代の乱婚を想起
リアルタイムで文字起こししてくださり、ありがとうございました!
皆さんの感想を聞いて印象的だったのは、「気持ち悪い」「不気味」と感じる方が多かったことでした。けれど、具体的に何がということは表現しにくい。気持ち悪さの正体は何でしょうか?
参加者の方の言われていた「徹底的に合理化された世界」というワードがヒントかもなーと思いました。合理・不合理でダン・アリエリーさんの『予想どおりに不合理』を思い出しました。以下作品紹介から引用します。
「現金は盗まないが鉛筆なら平気で失敬する」「頼まれごとならがんばるが安い報酬ではやる気が失せる」「同じプラセボ薬でも高額なほうが効く」―。人間は、どこまでも滑稽で「不合理」。でも、そんな人間の行動を「予想」することができれば、長続きしなかったダイエットに成功するかもしれないし、次なる大ヒット商品を生み出せるかもしれない!行動経済学ブームに火をつけたベストセラーの文庫版。
手元に本がないので具体的な内容は今確認できないのですが、人間は不合理であるという話(ざっくり)
あるいは「人間は堕落する」とか「人間の本性は邪悪である」とか、そんな言葉が浮かんできました。徹底的に合理化された世界というものは、人間味を感じないといいますか、果たして本当に構築出来るんだろうかと疑っちゃうんですかねえ。合理的に考えてみることは出来たとしても、やはり不合理な部分からシステムはうんたらかんたら。「性欲とセックスを無理に外してしまうことが気持ち悪い」というご意見もありました。
この実験都市千葉では皆が幸せそうに生きています。そんなすぐに変われる?洗脳されてるんじゃ……?というご意見もあり、なるほど確かに!と思いました。
世界観のお話としては、「千葉に移ってから個がなくなっている」というご意見もありました。全体のために生きるのが気味悪い。昆虫っぽい感じ。それが幸せみたいな……というのをお聞きして、もしかすると後々この世界からは「幸せ」という概念すらも消滅するのではないか……なんて思ったりもしました。セックスが消え、家族が消え、個性が消え、負の感情やら幸せとかが消え、思考することがなくなっていく。それは極端かもしれないけれど、実際現実に起こりそうなことでもあるなとも思いました。
今この世界で生きる私たちからしたら「そんな世界受け入れられない!」って感じてしまいそうですが、私自身は「こう決まりました!」と言われると反発することもなくすんなりと受け入れてしまいそうな所もありまして。っていう話をしていたら、見せ方の話になりました。この作品上では子どもたちが皆おかっぱ頭で同じ表情を浮かべていたり、雨音視点であるから気持ち悪さを感じてしまうかもしれないけれど、もし仮に「虐待問題の解消、不妊問題の解消」なんてことを全面に出されたら、受け入れられる人は大勢いるだろうと。確かにニュースなんかも印象でとらえてしまう節がありますし、言い方、見せ方で感じ方はガラッと変わりそうな気がします。
異世界転生でこの世界に行ったら発狂する!というご意見もあって、確かに!と思いましたが、これも別視点で考えてみますと……もともとこの世界の住人であったなら、何の違和感も抱いていないのだろうなあと思いました。今の私たちの価値観、考え方があるからこそ、この作品で描かれる世界に気持ち悪さを覚えるのだろうなあなんて。
仕事でいうと、何も考えない人のほうが上の人からすれば扱いやすいとのご意見もあって……ということをお聞きして、ではこの作品世界に置き換えたら?この合理化された世界を支配しようとする人(国家かな?)が存在しそうって思いました。雨音視点だけじゃなく、色んな人物からの視点でこの世界観を楽しんでみたいなあなんて思った次第です。消滅世界、続編出ないかしら……?
さて、ラストシーンはぞわっとくるものがありましたが、一つ思ったのは、このシステムを破壊するのはもしかしたら雨音なんではないか?ということでした。なんせ続きが気になりますね!
とりあえず今回は以上です!!
他にも色々とぐにゃぐにゃぐわーん!としたのですが、日常生活を送るなかでもまたこのぐにゃぐにゃぐわーん!はやってくるのだろうなと思います。その感覚を楽しみつついきたいと思います。
さて、「課題本読書会前」を読まれた方はお気づきかと思いますが、私自身の考えがガラッと変わるというわけではなく、私一人では気づけなかった点にハッとする、そんなことの方が多い感じです。もちろん、考え方がガラッと変わることもありますし、「なるほど!こういう考え方もあるのか!こういう視点があったか!」ということもあります。ちなみに「読書会で話題にしよーっと!」と書いたやつはもれなく忘れてました←
本来ならば皆さんのご意見を一巡して、気になるコメントについてさらにお聞きしていくようなスタイルなんですが、今回は23:30まで延長しても全然時間が足りませんでした!まだまだ語り足りない!ということで……
7月10日の課題本読書会の課題本は村田沙耶香さんの『消滅世界』とさせて頂きます!
今回日程が合わなくて参加出来なかった方も、今回参加してくださった方も、また是非ご参加ください!
そんなこんなで今日は終わります。
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!