ここは今から倫理です。
雨瀬シオリ
ヤングジャンプコミックス
書店で気になっていたけど、手に取る機会のなかった本。つい最近NHKでドラマ化してましたね。そのドラマの予告をたまたま見かけて興味を持ちました。
タイトルと表紙だけを見たとき、何ででしょうか、実は生徒たちで殺し合うようなバトルロワイヤルみたいなイメージをしておりました!ドラマの予告を見たら全然違ったので、自分の中でギャップがあり、そこから中身に興味を持った感じです。で、試し読みしてみたら「面白い!」となって5巻まで一気に買ってしまいました!
内容としては、高柳という倫理を教える先生が、生徒たちの抱える問題と向き合う話です。
皆さんは倫理って授業ありましたか?
私は全く記憶にございません……。倫理ってなんだっけ?てな感じでした。
倫理は「学ばなくても将来困る事はほぼない学問だ」と高柳先生は言います。ちょっと引用します。
地理や歴史のように生活する上で触れることは多くないし、数学のような汎用性も英語のような実用性もない。授業で得た知識が役に立つ仕事はほぼない。この知識がよく役に立つ場面があるとすれば死が近づいた時とか。
信じられるものがなくなったとき、死が目前に迫ったとき、人は宗教による救いを求める。宗教とは何か。
人間関係がうまくいかない。他人を羨んで妬んでうまく生きることができない。よりよい生き方を考える
悩みが絶えず苦しい憂鬱。私は何の為に生きている?幸せとは何か。男はこうあるべきとか女はこうしなきゃだめとか、そんなこと誰が決めた?ジェンダーについて。
死にたい。いのちとは何か。
そんなことを学ぶらしいっす。
「知らなくてもいいけど、知っておいた方がいい気はしませんか」と。その先生の言葉を聞いて私はうんうんうんうんと4回くらい一人頷いておりました。倫理とは、人間生活の秩序、つまり人倫の中で踏み行うべき規範の筋道(の立て方)。……引用しておりますので普段とは違って何だか高尚な人間になった気になってきましたが私の言葉じゃありません。先生の言葉です。
で、物語の中では生徒たちが問題を抱えていたり、悩みを抱えていたりします。自殺しそうになる子がいたり、SNS上ではフォロワーも多いけど、教室では居場所がない生徒だったり、特技も夢もやりたい事も特になくって「普通」ということに悩む生徒だったり、受験のための勉強にとらわれている生徒だったり。
それらを解決……するわけではない!というところに私は面白さを感じました!
先生が一方的に倫理学を教えるわけではなく、先生自身も迷いながら生徒たちと関わっているのです。そこに人間臭さがありまして、先生のことが好きになっちゃう。先生は知識はあってもそれだけでは人は救われないということを生徒との関わりを通して痛感していって、ちょっとやけくそになったりもする。そこが面白く感じました。
好きな話は一巻の最後の話です。
夜遊びしてて授業中は居眠りばかりの生徒。高柳先生は「あなたと話がしたい」と言って携帯番号を教えます。生徒にとったら先生の番号はおもちゃみたいなもんで実際いたずらもするけど、生徒はまた電話します。そのときのやりとりは何気ないけど、生徒はそれで救われていました。実際には難しいかもだけど、そうやって人と人との輪の中で互いに救われていくのて良いなーと。
あとは主義の話も面白かったです。
クラスのグループLINEがあって、皆でやっていこうぜうえーいみたいなノリ。それは嫌やけど抜けにくいみたいなノリ。資本主義と全体主義に当てはめて議論していくのは、不思議と私自身もその話し合いの場にいるような気分になりました。実際その場にいてもうんうんうんと頷いているだけで何の発言も出来ないでしょうけれども……。
読んでいる最中というよりも、読後ふっとしたときに思い出して考えたりする作品かなと思います。もし良かったら試し読みだけでもぜひ!