あなたが思ってるよりずっと遠くまで行けるのよ

最近星野源さんのエッセイ2冊を立て続けに読んでいる。そこからふと『逃げるは恥だが役に立つ』を思い出した。というのも、エッセイは独身時代のことが書かれているんだけども、結婚した今はどんなことを書くんだろうなーなんて思ったからだ。星野源さんの結婚相手は、そう、新垣結衣さんである。逃げ恥で共演していた新垣結衣さんである。

逃げ恥はお話も面白かったんだけど、石田ゆり子さんが演じていたゆりちゃんが私の中ではベスト・オブ・登場人物だった。

ゆりちゃんの出るシーンで頭から離れないセリフがある。

第8話でゆりちゃんと風間さんが車に乗っているシーン。風間さんが「電車やバスで十分」と言うんだけども、それに対して車を運転しているゆりちゃんが「あなたが思ってるよりずっと遠くまで行けるのよ」というセリフを放つ、あれだ。

当時はまだ車を持ってなかったのでピンとこなかったのだが、車を持つようになり、過去の自分と比較すると、よく分かるようになった。車がなくても移動方法は色々とある。電車や自転車、徒歩など日常使い出来るものもあれば、新幹線や船や飛行機などちょっとした旅行や帰省などで使うものもある。けれどこれはいわば「決まったルート」しか自分自身に選択肢がないということなのだ、多分。

例えばごはんを食べに行こうと思ったとして、特に行き先が決まってなかったとする。すると、食べログなどで検索していても、自宅から自転車で行ける範囲や、駅から近いところにあるお店が選択肢としてまず浮かぶ。よっぽど強い意識や「ここに行きたい!」という思いがなければ、たいていはそこから選んでしまっている。お店は沢山存在しているけれど、この時点で私の選択肢からは除外されていて、存在そのものがなかったことになっているのだ。

自由であるようでいて、その実、決められたルートの中からしか選んでいないのである。

厳密には車も道路が通っているところしか走れないわけだけども、ハンドル操作によって自分自身で行き先を変えることが出来る。進むことも出来るし、戻ることも出来る。新幹線や電車や船やバスは、自分自身の都合で行き先を変えることは出来ない。

車を運転していると、「あなたが思ってるよりずっと遠くまで行けるのよ」という言葉が浮かんでくることがよくある。運転している時は何かと物事に耽りやすい時間だからかもしれない。

それだけの話である。おわり。