地球星人
村田沙耶香
新潮文庫
どえらいもんを読みました。
村田沙耶香さんの作品にはこれまで『コンビニ人間』『殺人出産』『消滅世界』と読んできましたが、何でしょう、それらを読んだあとで良かったなと思いました。一番最初に村田沙耶香さんの作品としてこれを読んでいたら、少なくとも上にあげた三作品では物足りなくなるかも?それだけ刺激の強い作品でした!本の帯には「芥川賞コンビニ人間を超える衝撃!」と書かれているのですが、この帯に嘘偽りはありません。ただ、もしよければまずは『コンビニ人間』をワンクッション的にでも読んで頂いて、それから『地球星人』を読んでもらいたいなーと個人的には思います。
主要な人物は三人です。主人公の奈月という女性、奈月の夫、いとこの由宇の三人です。前半は奈月が小学生のころの話で、いとこの由宇と秘密の恋人同士の話を軸に進んでいきます。後半は大人になって夫と結婚して3年が経ったころの話という構成になってます。三人に共通しているのは、程度の差はあるけども、うまく社会になじめないという点です。ざっくりいうと、自分たちは異星人だから、地球星人のすることは理解できないのかもしれない、というように感じたりしています。奈月はポハピピンポボピア星の魔法警察からやってきた使者ピュートからステッキとコンパクトをもらった魔法少女で、由宇は宇宙人だと。
奈月は小学生の頃から「私は人間を作る工場の中で暮らしている」という捉え方をしていて、大人になったら工場の部品にならなければならないと感じてました。部品というのは、例えば大人になったら働くということだったり、結婚をして子供を産んで、というようなことです。世間一般的にそれが「普通」だとかされているようなことですね。けれど、奈月は自分の家族にもなじめてなかったりします。父と母、姉の四人家族なんですが、自分がいないとき、三人でいるほうが家族として幸福そうであると思っていたりします。実際、姉の方が大切にされている描写もあったり、奈月自身は母親からひどいことをされていたりします。小学生のころの彼女にとってのよりどころは、いとこの由宇だけでした。二人は秘密の恋人同士になるんですが、とある事件を機に周りから会うことを許されなくなります。
で、大人になってからの奈月は、やはり工場の部品にはうまくなれないであろうと感じていました。そこで「すり抜けドットコム」というサイトを使って夫と出会って結婚しています。といっても一般的な夫婦関係ではなく、戸籍上だけ婚姻関係にあって、実生活は他人同士でルームシェアしているような感じです。しばらくはひっそりと暮らせていたのですが、子供がいないことで徐々に周囲からは「なぜ子供を作らないのか?」といった圧力がかかることに……。
小学生以来会っていなかった奈月といとこの由宇、そして夫の三人が後半になって出会います。さあ、それからどうなるか……なんですが、読んでいて私は展開が全く読めませんでした。一体、どう終わらせるんだろう、どこまで行っちゃうんだろうというハラハラドキドキ感がすごかったです。終盤はもう「えらいこっちゃえらいこっちゃあわわわわわわ!」でした!(語彙力)
展開もすごいんですが、やはり村田沙耶香さんの作品で毎回感じるグワングワンと揺さぶられる感覚。自分の中で凝り固まっている「常識」だとか「普通」だとかを強く揺さぶられる感覚がものすごかったです。日常生活を送っていて相手のちょっとした言動で引っかかる違和感だとか、そういったものってつい流してしまいがちかなと思うんですよね。なんで働かなければならないのか、なんで結婚しなければならないのか、なんで働かず結婚もしていなかったりすると周りから責められなければならないのか……。違和感や疑問を抱かずに暮らせていたらどれだけ楽だろうか。この本を異星人側の視点で読んでしまうと、地球星人側はとんでもなく恐ろしく押し付けを行っていて、無理やり自分たちと同化させようとしているんじゃないかなとか……そういう気分になってきます。まだうまく自分の中で整理出来ていませんが……一言でいえば「ぐんにゃりと気持ち悪くて吐き気がする」がしっくりとくる作品かなと。その感覚を味わえる物語であることが、この作品の魅力かなと思います。
あと、作中に何度か出てくる「何があってもいきのびること」というフレーズが頭から離れなくなります。作中では奈月と由宇が交わした約束の言葉なんですが、自分自身の生活で嫌なことがあった時とか、許せないことがあった時とか、そんな時に自分自身を奮い立たせる言葉にもなるんでないかなと、そう思いました。私からは以上です。
ぜひ、読んでみてください。オススメです!