今年も残すところあとわずかとなりましたね。この一年、あなたにとって最高の出会いとなった本は何だったでしょうか?
このたび、読書の楽しさを皆さまと分かち合うため、「みんなの選んだマイベスト本2025」企画を実施しました。
12/4にお知らせを開始し、皆さまから想いのこもった「マイベスト本」の紹介文をいただきました。ありがとうございました。
〇募集していたページのリンク
▶あなたのマイベスト本2025を教えてください@彩ふ読書会+企画
小説、エッセイ、漫画、実用書、ビジネス書、自己啓発書、絵本、児童書、詩集、短歌集、雑誌、同人誌などなど本のジャンルは何でもOKとして募集を行いました。
あなたの知らなかった名作、次に読むべき一冊が、きっとこの中に見つかります。
皆さんの想いのこもったメッセージとともに、2025年を彩った「マイベスト本」の数々を、どうぞお楽しみください!
目次
志村琴音さんの選んだマイベスト本2025
『魚が存在しない理由』 ルル・ミラー(サンマーク出版)
世界中から魚類を集め、標本を作っていた生物学者のデイヴィッド・スター・ジョンソン。
なぜ、彼は「生物分類学」にのめり込んでいったのか。
なぜ、魚でなければダメだったのか。
なぜ、その後彼は最低最悪なレイシストへと成り下がったのか──。
その謎に迫っていくごとに、筆者は自らの幼少期まで遡っていって──。
デイヴィッドの半生を追うメインストーリーと、筆者の幼少期が混ざり合い、物語を加速させていく展開は圧倒的!
そして、この「魚が存在しない理由」という、何重にも意味が連なったタイトルの真相が明らかになった時の衝撃は、未だに忘れることができません。
これは、ドキュメンタリーという枠を遥かに超えた、空前絶後の一冊でした。
▶魚が存在しない理由 世界一空恐ろしい生物分類の話(amazonのサイトに移動します)
『いなくなくならなくならないで』向坂くじら(河出書房新社)
高校生の頃、親友同士でずっと一緒にいた時子と朝日。
だが突然朝日が消え、彼女が死んだという噂を耳にしてしまう──。
その後大学に進み、就活を終えた時子のもとに、突如として死んだはずの朝日が現れる。
そして朝日は「住所がないから泊めてほしい」と時子に頼んで──。
親友同士だからずっと一緒にいたい。でも距離が近すぎると相手の嫌な部分が浮き彫りになって、どこかに行ってほしくなる。でもやっぱり離れ離れになりたくないから、そばにいてほしくて──。
友情でも愛情でも性愛でもない、どこにもカテゴライズできない感情を丹念に描いた、著者の小説デビュー作にして芥川賞ノミネート作品!
余談ですが、米津玄師さんも今年読んだ本の中で面白いものがこれだとあげていらっしゃいました(以下は米津玄師さんが本作のことについて述べたURL。YouTubeは24:21から)
▶<インタビュー>米津玄師 初のワールドツアーと『Plazma / BOW AND ARROW』――物語、そして自身のキャリアを貫く“運命の糸”の確かな手触り | Special | Billboard JAPAN(外部サイトに移動します)
▶– YouTube(外部サイトに移動します)
▶いなくなくならなくならないで(amazonのサイトに移動します)
『みどりいせき』大田ステファニー歓人(集英社)
小学生の頃、バッテリーを組んでいた桃瀬と春。
高校生になって春と再会した桃瀬は、春がやっているバイトを手伝ってほしいと頼まれる。
だがそれは、違法薬物を秘密裏に配達する、いわゆる闇バイトだった──。
ずっと心の中に闇を抱えていた桃瀬が、アンダーグラウンドな世界にのめり込んでいく中で出会うのは、自分と同じように闇を抱えた同世代に若者たち。
社会に適合できず、その社会に一種の恨みを抱える彼らと出会い、桃瀬は何を思うのか。
そして、ずっと離れ離れだった桃瀬と春の心は再び近づくのか──。
ラップのように畳み掛ける特異な文体の中に、闇バイトという劇物に近いエッセンスが加えられていますが、その本質は純粋で爽やかな青春小説でした。
この小説の中で描かれているのが、例えどれだけ汚い世界でも、どれだけ醜い人間だったとしても、そこで生きているものというのは、どこまでも美しいものだと思います。
すばる文学賞&三島由紀夫賞をW受賞し、読書好きたちに衝撃を与えた一冊を、是非ともげとしてください!
ちなみに、三島由紀夫文学賞を受賞した際の記者会見がかなり面白かったので、そちらも是非!
▶– YouTube(外部サイトに移動します)
▶みどりいせき(amazonのサイトに移動します)
三作品とも未読の作品でしたが、すぐにでも読みたくなるような面白い作品をご紹介いただき、ありがとうございました!
『魚が存在しない理由』は、デイヴィッド・スター・ジョンソンに何があったのか、そしてタイトルの真相……めちゃくちゃ面白そう!『いなくなくならなくならないで』はタイトルからして惹きつけられました。米津玄師さんも面白い本にあげておられるということで気になります。『みどりいせき』の著者、大田ステファニー歓人さんの記者会見は印象的でした。素敵なベスト本の紹介、ありがとうございます(^^)
りこさんの選んだマイベスト本2025
『十戒』夕木春央(講談社文庫)
普段、ミステリーを読まない人にも読んで欲しい。一気読みできて、読んだ後も大満足間違いなしの名作。同じ著者の『方舟』を先に読んでから、本書を読むのがオススメです。
▶十戒 (講談社文庫 ゆ 10-4)(amazonのサイトに移動します)
『おいしいごはんが食べられますように』高瀬隼子(講談社文庫)
今までに読んだ本の中で、一番すごい本です。「みんななんとなく感じていたけれど、言葉にできなかった問題」「見つめたくなかった問題」が、書かれています。「今」という時代にぴったりの本です。
▶おいしいごはんが食べられますように (講談社文庫 た 143-1)(amazonのサイトに移動します)
『それいけ! 平安部』宮島未奈(小学館)
今、青春真っ只中の人にも、もう一度タイムマシンに乗って青春をやり直したい人にも、オススメの本です。「部活動」って辛いものではなく、本来はこんなに自由で、楽しいんだと再認識できます。
▶それいけ!平安部(amazonのサイトに移動します)
『十戒』良いですよねー!『方舟』を先に読んでから~というのは頷くばかりです。『おいしいごはんが食べられますように』は私もベスト本にランクインしました!(この記事の最後のほうに掲載しています)
『それいけ! 平安部』は未読ですが、著者は『成瀬は天下を取りにいく』の宮島未奈さんですし、気になる度増し増しです。素敵なベスト本紹介、ありがとうございました(^^)
シュシュさんの選んだマイベスト本2025
『夜と霧の誘拐』笠井潔(講談社)
舞台は70年代のフランス。資産家フランソワ・ダッソーの屋敷で催された晩餐会の夜、ダッソー家に仕える運転手の娘サラが誘拐されます。犯人から届く奇妙な指示に翻弄される関係者たち。やがて、誘拐の対象は間違いで、犯人の本当の狙いはダッソー家の娘ソフィーだったのではないかという疑念が生じます。同日、ダッソー邸近隣にあるカトリック系の女学校では、女性学院長の射殺事件が起こっていました。そんなあらすじの本書『夜と霧の誘拐』は、ミステリー小説の「誘拐もの」というジャンルに新たな金字塔を打ち立てたと言って過言ではありません。犯人の組み上げた複雑巧緻な犯罪計画を象徴するかのように、関係者の行動を表す分単位のタイムテーブルがときおり挿入されますが、やがて、すべての謎にパズルのピースを嵌めるかのごとく説明が付されていく終盤の展開は圧巻のひと言。また、本筋と絶妙に接続するかたちで、探偵役の日本人青年と女性哲学者の対話が挿入されるのですが、この哲学者には実在のモデルがいます。『全体主義の起源』、『人間の条件』などで知られるハンナ・アレントです。アメリカに亡命したユダヤ人である彼女は、ナチスの全体主義を批判し、戦後、提唱した「凡庸な悪」という概念は議論を呼びました。最終章の、ナチスとユダヤ人をめぐるふたりの対話は現代のイスラエル問題にも通じる歴史の含意に満ちています。ミステリー小説としての高度なギミックと、大戦の総括を哲学からアプローチするというテーマ性とが違和感なく融合した一冊で、読後の充足感は間違いなく今年一番のものでした。
▶夜と霧の誘拐(amazonのサイトに移動します)
分単位のタイムテーブル!それをチェックするだけでもワクワクしてしまいそうです(字面だけで既にワクワクしているっていう)。実在の哲学者ハンナ・アレントをモデルにした対話が組み込まれている点にも、知的な深みと圧倒的なスケールを感じました。現代にも通じる歴史的テーマを鋭く描いた重厚な一冊!素敵なベスト本紹介、ありがとうございました(^^)
モリヤさんの選んだマイベスト本2025
『タタール人の砂漠』ディーノ・ブッツァーティ(岩波文庫)子
彩ふ読書会・東京会場2025年9月の課題図書。
聞いたことのないタイトルと聞いたことのない著者。
Amazonのレビューは高評価の嵐。
岩波文庫売れ筋ランキング1位。
「何も起こらない系」の話が好きな私としては、読む前から楽しみだ。
物語は不穏な雰囲気で始まる。ようやく任務地の砦に到着したドローゴ中尉は早速、転属を願い出る。
そのあと、何十年も砦に勤務する人々の話を、ドローゴが聞いていく下りで、私は思った。
「これは『何も起こらない世界』で、何かが静かに激しくうごめく物語だ。」
案の定である。
ドキドキハラハラの「何も起こらない世界」。
変化は、外界よりも内面において、はるかに大きく起こる。
それは、物語の中の人物においても、物語を読む者にとっても。
そして、期待通りでもあり、期待を裏切りもする結末。
人生の今を否定してみても、結局は、今を受け入れ続けるのである。
人は見たいものだけを見、聞きたいことだけを聞くのである。
「現状」は維持されるのである。
「これは自分の人生だ」と、どれほどの多くの人が思っただろう。
1940年にイタリアで刊行された本作。
時代も場所も全く異なる2025年の日本で、人々の共感を呼ぶ不可思議。
当時34歳の著者は、これほどの人生の深淵を、一体どこで見たのだろうか。
▶タタール人の砂漠 (岩波文庫)(amazonのサイトに移動します)
『七帝柔道記Ⅱ 立てる我が部ぞ力あり』増田俊也(KADOKAWA)
2013年に刊行された前作『七帝柔道記』から、約11年ぶりの続編である。
簡単に説明する。
オリンピックをはじめ、TVで目にする柔道は、嘉納治五郎が創始した「講道館柔道」。一般的には「柔道=講道館柔道」であるが、それとは異なるルールで行われる柔道がある。
かつては「高専柔道」と呼ばれ、現在は、七つの旧帝国大学の柔道部だけで行われている「七帝柔道」がそれである。
寝技中心。15対15の団体戦のみ。ポイント制無し。
体格や才能ではなく、「練習量が全てを決定する」柔道。
本書は、北海道大学で七帝柔道に打ち込むため、二浪して入学した主人公を取り巻く、青臭い、汗臭い、男臭い、「三臭い小説」である。
体格的にも技術的にも恵まれない、1年上の先輩テツさんに対する、主人公の眼差しが美しい。
前作で、ケガで入院している主人公を見舞いに来てくれた先輩に、主人公は、
自分がテツさんの体格だったら、部を辞めずに続けられただろうか。自分にテツさんのパワーしかなかったら、毎日の練習に耐えられただろうか。俺はあなたのことを男として尊敬しています。あなたの後輩であることを誇りに思っています。
と心の中でつぶやく。
そのテツさんの努力が、この続編で開花する。
試合が始まって驚いた。テツさんは目の覚めるような寝技を展開した。体重では圧倒されながらも、的確に相手の技に応じ、決して重要なところを極めさせない。それはまさに究極の寝技だった。
主人公は言葉にできない感動に包まれた。
練習でもテツさんに負けることはない主人公は、テツさんを侮ってもおかしくはない。しかし主人公のテツさんに向けられた眼差しは、暖かさと尊敬に満ちている。
実際に言ってしまえば先輩を傷つけてしまうから、主人公は決して口にはしない。
強さとは何なのか、強いとはどういうことなのか。
この本を読んでそんなことを考えた。
▶七帝柔道記II 立てる我が部ぞ力あり(amazonのサイトに移動します)
『タタール人の砂漠』を課題本とした読書会、楽しかったですね~!1940年のイタリアで生まれた物語が、現代の私たちに響くのは、この作品が時代を超えた普遍的なものだからだと改めて実感させられました。『七帝柔道記Ⅱ 立てる我が部ぞ力あり』は、まさしく「柔道=講道館柔道」と思っていた人間でして、「七帝柔道」というものがあること自体、初めて知りました。試し読みしてみたのですが、文章も読みやすくて引き込まれます。結構な分量試し読みできますので、皆さんも良かったらチェックしてみてください。素敵なベスト本紹介、ありがとうございました(^^)
ひじきさんの選んだマイベスト本2025
『15人で交換日記をつけてみた』みんなの日記サークル(ファシリテーター:pha)
3ヶ月間日記をつけるというワークショップで知り合った15人のメンバーが、ワークショップ終了後も互いに日記をつけ続けることによって生まれた同人誌です。ワークショップ最終日の全員の日記、交換日記が始まるまでの1ヶ月間の日記(抜粋)、15人による交換日記×3周分が収録されています。
この本に収められた日記はどれも、1日の出来事を具体的かつ丁寧に書き留めています。それらに目を通していると書き手の人となりや温もりが感じられました。また、良いことや嬉しいことばかり書かれているわけではなく、ダメな部分やクセの強い部分も赤裸々に綴られているという特徴があります。そのために人間臭さがいっそう強く伝わってきて、読書中は全く知らない人の日常を多少なりとも追体験したかのような感覚になりました。
有名人でも作家でもない市井の人たちでも、日々の出来事を誠実に綴るだけで魅力的なものが書ける。それを読むことで同じ時代を共に生きている人の息遣いが感じられ、微かな連帯感のようなものが芽生える。この2つは私にとって非常に大きな発見でした。自分も精力的に日記をつけてみようという気になりましたし、同時に長い一人暮らしの中でいつの間にか巣食っていた寂しさがほんの少し和らいだ気がしました。
この本と出会ったのは、2025年1月に開催された「文学フリマ京都」という同人誌即売会でのことでした。つまり、私の2025年は日記本との出会いと共に始まったわけです。そして、そこで貰った力は、私をこの1年様々な場面で支えてくれました。そうしたことを思い返すと、まずはこの本をマイベスト本に挙げずにはいられませんでした。
▶15人で交換日記をつけてみた 「日記をつける三ヶ月」のあとの三ヶ月(amazonのサイトに移動します)
『ひゃくえむ。』(新装版 上・下)魚豊 講談社(KCデラックス)
100m走に人生を賭けた者たちの情熱と狂気を描いた作品。生まれつき足が速い早熟の天才トガシと、死に物狂いの努力で最速を目指す小宮――2人の小学生での邂逅、インターハイでの対決、社会人選手としての再戦を中心に、物語は進んでいきます。苦悩・挫折などの経験を経て、彼らは「何のために走るのか」という問いと向き合い、最終レースを迎えるのです。
この作品は2025年9月にアニメ映画化されており、私もまず映画館で本作と出会いました。そこでとてつもない衝撃を受け、後日原作を買って読みました。ちなみに、映画版と原作はストーリー展開や登場人物の設定など随所に違いが見られますが、肝となる部分は共通しています。
この作品の魅力は、とにかくアツいということです。もっとも、ハイテンションな熱血ぶりというのではありません。『ひゃくえむ。』の登場人物たちは、約10秒という一瞬の勝負にガチで向き合い、更なる高みを目指しています。それは不安定で不確実な状況に身を置くということですが、彼らは安心を手中に収める代わりに挑戦を続けるのです。そんな登場人物たちの姿から、生きるうえで必要で、大切なアツさを教わった気がしました。平穏な人生だけでは得られない生命の躍動があり、それには何物にも代えがたい価値があると気づいた、と言い換えてもいいかもしれません。
また、登場人物はそれぞれ、100mに挑戦し続けるための哲学を持っていたり、物語を通して見出していったりします。それらが悉く名言なのですが、どんな言葉なのかは実際に読んで確かめていただきたいと思います。
正直なことを言うと、この作品に関しては「とにかく推したい」という思いと、「あまり事前情報を入れずに読んで衝撃を食らって欲しい」という思いが拮抗していて、どう紹介していいのかわからない状態です。それは本当に強い感銘と影響を受けた証でもあります。とにかく、1人でも多くの人がこの作品に触れることを願わずにはいられません。
▶ひゃくえむ。新装版(上) (KCデラックス)(amazonのサイトに移動します)
▶ひゃくえむ。新装版(下) (KCデラックス)(amazonのサイトに移動します)
『15人で交換日記をつけてみた』はみんなの日記サークルによる交換日記。再入荷待ちではありますが、第2弾、第3弾もあるようで、第3弾は5月の文学フリマ東京40で手に取ることが出来たようです。次回出店される際には要チェックですね!『ひゃくえむ。』は『チ。 -地球の運動について-』の作者さんなんですね!9月に劇場アニメ化もされてて、12/31にはネットフリックスで配信されるのだとか!気になります。素敵なベスト本紹介、ありがとうございました(^^)
のーさんの選んだマイベスト本2025
『おいしいごはんが食べられますように』 高瀬隼子
私には、読了後も「日常の認識に影響を及ぼす系作品」がいくつかありますが、今年読んだ『おいしいごはんが食べられますように』も見事にその一つに加わりました。芥川賞受賞作で、現在は文庫化もされています。
物語は、押尾と二谷、二人の視点で進みます。押尾は「人間関係」を、二谷は「食」を軸に描かれていると考えると、作品に入り込みやすいかもしれません。二人の目線の先にいるのは、職場の同僚である芦川さん。この三人を主軸とした職場の話は、リアルで容易に想像ができます。
登場人物の誰か一人に完全に感情移入できるわけではありませんが、三人の言動のポイントポイントに「分かるわー」と深く刺さる部分があり、読み終わってからも、ぐにゃぐにゃっと揺さぶられ続けているような心地良い感覚が残ります。
これまでにも日常でこうしたもやもやを抱える機会はありましたが、その感情を上手く言語化もイメージもできずにいました。それが、この本を読んだ後では、ふと二谷の気持ちが浮かぶようになりました。「あー、このときの二谷の気持ちって、こんな感じだったのかなあ」と思ったりします。
こうした感覚は、読書以外の経験でも得られますが、読書だからこそ、誰かに対して気遣う必要も、誰かを傷つけることもなく、手っ取り早く一人で疑似体験できる。そこに読書の良さがあるのではないかと感じます。
『おいしいごはんが食べられますように』や『コンビニ人間』のように、芥川賞や候補作となった作品を読むことは、自分以外の誰かの思考や行動の理由を知るための最短ルートなのかもしれません。『おいしいごはんが食べられますように』本当良いですよ!ぜひ皆さんにもこの本を読んでもやもやを抱えてもらいたいと思っています。
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『暗黒館の殺人』 綾辻行人
昨年11月に再読した『十角館の殺人』で「これこれ!こういうのが読みたかったんだよ!」となり、私の一年は綾辻行人さんの館シリーズを楽しむ旅となりました。『暗黒館の殺人』は、館シリーズの第7作にあたります。文庫版では全4巻!総原稿数2,500枚の大ボリューム作品です。
正直、私は上下巻に分かれるだけで敬遠してしまう癖がありました。しかし、『暗黒館の殺人』は「いよいよここまで来た!」という気持ちと、本編の前に載っている「館の平面図」や「登場人物一覧」を見ただけでテンションがあがるようになっており、「よし挑戦してみよう!」という気持ちになりました。
作中の様々な情報で暗黒館の世界観をインプットしてからも、物語がまだまだ続くという事実に、「そうか、ボリュームのある作品はこういう幸せが長く続くんだなあ」と新たな発見をしました。3巻目を読み終えた際には寂しさを抱きつつ4巻目に突入。4巻目を読み終えたときには、読み終えてしまった悲しさをはるかに上回る、大満足感に包まれました。
大ボリューム作品を読んだ経験が大きな自信となり、その後に読んだドストエフスキーの『罪と罰』も、「なんせ4巻分もある本を読んじゃったからねー」という気持ちで、苦手意識なく楽しむことができました。
複数巻に分かれた本に対しての苦手意識は、この『暗黒館の殺人』によって覆されました。むしろ大ボリュームだから得られる「長く深く浸る楽しみ」があるのだと、認識を改めさせてくれたマイベスト本です。
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『SLAM DUNK』 井上雄彦
リアルタイムで読めていたはずなのにぃーーっ!!私はなんちゅー名作を通らずに生きてきたんだと悔やまずにはいられない名作でした。そんな経験をした今年のスプリング。読むきっかけとなったのは、とある方から本を貸していただいたことと、ネットフリックスで映画『THE FIRST SLAM DUNK』を観て心を奪われたことでした。
『SLAM DUNK』はバスケットボールを題材にした漫画です。桜木花道という赤い髪の男が主人公です。彼は不良です。ワルです。男相手にはすぐに頭突きします。しかし女子に対しては紳士的であろうとします。中学3年間で50人の女子にふられますが、50人目の相手からは「バスケ部の小田君が好きなの」と言われて断られてしまいます。バスケと聞くだけで失恋を思い出して苛立ち、彼はクラスメイトがバスケの話題をするだけで頭突きします。そんな彼は高校生になって出会った赤木晴子という女性に一目惚れします。彼女から「バスケットはお好きですか?」と聞かれ、花道は「大好きです。スポーツマンですから」と、やったこともないのに答えます。それから何やかんやとあってバスケ部に入部します。晴子さんに誘われて始めたバスケですが、花道は次第にバスケットマンへと変わっていきます。
花道はバスケのルールを全く知らないところからスタートしますが、素質があり、試合では何かをやってくれそうな期待感があります。点差が開きメンバーたちが諦めそうなムードなときには空気を変え、ハラハラドキドキした展開ではしっかりと役割を果たしてくれる、The主人公感が半端ないです。
花道も魅力的ですが、仲間たちも魅力的です。読んでいて思うのは「青春っていいなーーーーー!」ってことです。何かに熱中する姿を見るとやはり心打たれます。
リアルタイムで追えなかったのは残念ですが、逆に考えればこれから追えるということで楽しみが増えました。新装再編版13巻まで読みましたので、来年も引き続き最後まで読もうと思います。
▶SLAM DUNK 1(amazonのサイトに移動します)
以上です!
「知らなかった名作」や「次に今読むべき一冊」と巡り会えたのではないでしょうか。紹介文を送っていただいた皆さまもありがとうございました。この企画を通じて、読書好きへの方々の輪がまた広がっていくことを心から願っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
来年も読書を楽しみましょう~!!

