生きてるだけで、愛。
本谷 有希子
新潮文庫
今回ご紹介する本は本谷有希子さんの『生きてるだけで、愛。』です。
鬱の寧子(やすこ)と、同棲している津奈木(つなき)の二人の生活を描いた話。主人公の寧子の生きづらさが生々しく描かれていて、救いがないような感じでずーっと話が進むんですが、最後には微かに救いが見つかるような、そんな話です。個人的には読後感が良かったです。
普段、このカテゴリでは推し本紹介ということで「皆にオススメしたい本」を紹介しているのですが、今回は誰にでもオススメできるわけじゃあないです。というのも、読んでいるとだいぶ気持ちが引っ張られます。映画版も観たのですが、映画版では寧子がしょっちゅう叫んだり物を投げたり、気持ちの浮き沈みがあったりするので、穏やかな気持ちのまま見るのは難しいです。あと津奈木の人物像が若干違うので、小説版のほうをオススメします。映画版は映画版で良かったですが(特にラストシーンは趣里さんと菅田将暉さんの演技最高でした)
今回紹介したいなと思ったのは、私の一時期に非常に響いたから。きっと、気分が沈んでいたり不安が大きい時ほどこの本は寄り添ってくれるのではないかなと思います。逆にひゃっふー!とテンション高いときとか気分が良い時に読んでもあまり響かないかなと。
ただし、気分が沈んでいたり不安が大きいときに読むのであれば、途中でやめるのはおすすめしません。最後まで読み切ることをおすすめします。そうしないと気持ちが引っ張られたままで終わってしまうので、多分後悔します。
さて、本の内容ですが、物語は寧子視点で描かれてます。寧子はいつからかは書かれてなかったと思うんですが躁鬱でいきなり吹っ切れるところがあって、例えば急に裸になって踊り出したり、物を投げたり、高校生の時には全部の毛を剃ったりするような感じ。鬱から来る過眠症で引きこもり気味の生活をしていて仕事はしていません。津奈木は雑誌の編集の仕事をしていて、飲み会で知り合ったことから成り行きで二人は付き合うようになって同棲して三年。なんというかこの同棲生活は停滞感が漂っていて読んでいると苦しくなってきます。寧子はことあるごとに小さなことが引っかかって津奈木を怒るし、津奈木はため息をついて「ごめん」というばかり。寧子は急に思い立って晩御飯を作ろうとするけど、スーパーに買いにいくと頭の中がいっぱいになって、味噌買い忘れたりしてブレーカーが落ちてパニックになって津奈木が帰ってくるまでうずくまっていたり。津奈木からすれば寧子と別れることもできるだろうけど、別れることはせず、かといって進展があるわけでもなく、ただ生活を続けている感じです。ここらへんのパートは読んでいて辛いです。
途中、津奈木の元恋人が登場し、少し物語が進みます。三年ぶりに見かけた津奈木が大人っぽくなっていたのと、元恋人自身もそろそろ結婚を考えていて、また付き合いたいから津奈木と別れてよ、と寧子に迫るわけです。ひょんなことから(本当ひょんなことからって感じですが)元恋人とのやりとりの流れでとあるバイトをすることになります。そこで少し光も見えてくるのですが……という感じです。
とにかく寧子のもう自分でもどうにも出来ない感じが読んでいて辛いです。辛い、ということは私自身は誰目線で読んでいるのかって話ではありますが。「ごめん」ばかりを繰り返していた津奈木と真正面から向き合ったとき、津奈木自身の気持ちがようやく描かれて、そこに一筋の光が見えてくるって感じなんですが、ぜひあとは手にとって読んでいただけたらと思います。
以上です。