1/7PM読書会レポート “日の名残り” 私が語り手とならねばなりますまい

あえて先に言いましょう。

この開催報告書に「内容はないよう」と。

・・・・・・公式の開催報告という場でありながらおふざけが過ぎるのは、ひとえに私が長年研究を続けてきたジョークの成果にございましょう。新しい主人になってからというもの、私はジョークの研究に勤しみました。もう50年以上になりますか。もちろん、「ちょっと何言ってるか分からない」といったご指摘を頂くことはいまだに多くあります。むしろ近頃増えたような気もしております。ジョークの衰えとでも申しましょうか。いやはや、もしかすると最初からそうだったのかもしれません。しかし私は「ちょっと何言ってるか分からない」と言われた際の対策は既に会得しております。いわゆるスベり知らずの妙技。これこそ私が50年かけて得た研究の成果でございます。それは、そう、「スベっても気づかないフリをする」ということ。これが肝心なのでございます。気づいてしまう事は多々あります。しかし、あえて気づかないフリをするのでございます。これだけ改行を加えないで書かれた文章を飛ばさず一生懸命読んで頂いた方は既にお気づきかと思いますが改めて言いましょう。この開催報告書には「内容はないよう」と。それでももしこの先に進まれるのであれば進んで頂いても結構なのでございますが、読み終えた後に思わず「本当に内容がないよう・・・・・・」と呟かれるのを覚悟して頂かなければなりますまい。そしてジョークは案外書きにくく駄洒落で済ませていることを先にお詫びしておきましょう。きっとこの文章が世界中に拡散され翻訳される頃には各国の文化的背景に合わせたジョークに変換して頂けているに違いありますまい。そう、これは日本にいる皆様に向けて書いた報告書でございますれば、ジョークではなく駄洒落を使っているのでございます。ジョークが苦手だった時代は過ぎました。今の私にとって、ジョークとは既に切り離すことが出来ないものなのでございます。

「読書会の雰囲気を知りたかったのに何だこの開催報告は!」とお怒りになられる方もございましょう。しかし過去を振り返ることは出来ても、全く同じ時が流れるという事は決してありえないのです。それこそ、まさに日の名残りとでもいうのでございましょうか。いくら言葉を重ねようとも、結局の所、百聞は一見にしかずとのことわざもあるように、ご自身で体験して頂く他に知る術はないのでございます。

この開催報告書が初見の方は、どうかこちらではなく先に午前の部に目を通して頂きたく存じます。午前の部はこれよりも多少は真面目な文章でございます。午前の部の開催レポートはこちらでございます。

さて、ここから先は日の名残りの内容についても触れております。日の名残りを課題本にした読書会でしたので、どうしてもネタバレせねばなりません。まだお読みでない方は、読み終わった後に先に進んで頂けたら幸いにございます。そして、私はあくまでも信頼できない語り手でございますれば、主観的な感想が入ってしまう事もご容赦頂かなければなりますまい。

 

 

 

 

 

~~~以下ネタバレ含みます~~~

 

 

 

 

 

 

2018年1月7日。読書会を開催した一日が終わろうとしているいま、この静かな自室で私の心によみがえってくるのは、英国の雰囲気溢れる素敵な空間と、皆様の笑顔でございます。英国紅茶専門店ロンドンティールーム堂島本店併設のオックスフォードクラブ。ここが、本が好きな方々の集まる会場でございました。JR大阪駅から徒歩8分ほどの所にあります。

2017年、カズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞されました。受賞を機に作品を読まれた方も多いのではないでしょうか。お恥ずかしながら、私もその一人であったと告白せざるを得ません。お集まりになった方々の中にはカズオ・イシグロ氏の作品が好きな方もおりまして非常に興味深いお話も沢山ありました。日の名残りも名著でございますが、カズオ・イシグロ氏の作品を初めて読む方には「わたしを離さないで」もお薦めしたい所でございます。

本が好きな方々が集まって何をしていたか――隠しても仕方ありますまい――そう、読書会でございます。決して怪しい集団ではございません。読書会は、本が好きな方にはオススメな会でございます。私自身も以前は他の読書会に参加しておりました。色んな場所で色んな形式で開催されており、そのどれもが素敵な読書会でございました。読書会に参加すると、自分では絶対手に取らないであろう本との出会いがあったり、本の話題を通じて普段接点のない方とお話することが出来ます。参加された方同士で本の話題に花を咲かせる。何と素敵なひとときでございましょうか。

彩ふ読書会は午前の部と午後の部に分けて二種類の読書会を開催しております。午前の部は「発表会式・自由読書会」であり、持参した本を各自紹介していく形式で行っております。今回ご報告する午後の部は「テキスト読書会: 同一のテキストを使う読書会」でございます。事前に課題本を読了しておき、当日はその本について語り合う形式でございました。どちらの部も「家庭でもない。職場でもない。貴方にとっての第三の居場所作り」を目的としております。

午後の部にお集まり頂いたのは、私を含め5名。

まずは自己紹介をして頂き、それから本の感想に移りました。皆さん会が始まるまでには読了しておられますので、ネタバレを気にする必要なくお話することが出来ます。

それぞれ感じることは違っておりました。もちろん、どの意見が正しいとか間違っているという事はございません。同じ作品を読んでも気になる点や心に響くシーン、印象に残るところというものは違うものです。こういう視点もあるのだ、といった部分をあえて楽しんでみると、この会は楽しむ事が出来るのではないかと存じます。

日の名残りの全体的な印象として「読みやすかった」「言葉が丁寧だけど重苦しくない」「重厚感はあるけど重苦しくない」といった意見がありました。私個人としましても、ミス・ケントンが出てきた辺りからは面白さが増した気がしております。カズオ・イシグロはやはりイギリス人なんだな、彼のアイデンティティがある、といった意見も非常に興味深いものでした。

スティーブンスとミス・ケントンの関係性についても読書会では触れております。122ページに「急ぎのご用ならメモでどうぞ」といった言葉を放つミス・ケントンが非常に気になったのです。208ページでルースとセーラの二人を解雇する話になった際、スティーブンスとミス・ケントンは衝突します。まさに険悪。211ページではからかうレベルになっておりますが、ミス・ケントンは腹が立たなかったのでしょうか。と思っておりましたら214、215ページでは「あのときそのお考えを私と分かち合ってくださっていたら~」といった言葉もあり、やはり全く納得いってなかったのだと分かります。職業人としての立場・建前、自分の地位にふさわしい態度というものがあり、職場で立場上指摘せねばならない事もあります。こういう関係性になってしまった時、一体どうすればよいのか。建前を守りたいスティーブンスと中に入っていきたいミス・ケントン。職場での上下関係や人間関係など、考えることは多くありました。近すぎると糸が絡まる~といった距離感の話も非常に面白いものでございました。

主観的にはなりますが、私個人としましてはジョークの話題に興味が尽きることはありませんでした。やはり50年以上も研究を続けておりますゆえ、どうしても外せない話題だったのであります。スティーブンスのジョークは面白いのか面白くないのか。それは何故なのか?文化的背景の違い?日本では受け入れられない笑いに世界で受け入れられる笑い。カンナムスタイルにPPAP・・・あれは何故あんなに流行ったの?少し脱線しつつありましたが、それはそれで大変面白い話題でございました。インタレスティングだけどファニーじゃない、という言葉が印象的でございました。

358ページの解説の部分にも触れております。スティーブンスの旅は1956年。スエズ危機の年でありながら、モスクムの村人との会話でスティーブンスはスエズ危機には一言も触れていません。それは何故なのか?(現代小説の謎38)読みながら、ぜひお考えいただきたいと解説にはありました。さて、それは何故なのでしょう?

読書会を終えたいま、改めて日の名残りを再読したくなります。おそらくまた違った意見を持つでしょう。数年後に読み直せば、その時もまた違った意見を持つでしょう。これはやはり名著と言わざるをえませんね。

さて、この開催報告も長くなっておりますので、そろそろ終えねばなりますまい。次回の課題本について触れておきましょう。また来月お会い出来ることを楽しみにしております。

 

 

 

次回の課題本は、不朽の名作、ダニエル・キイス氏の「アルジャーノンに花束を」でございます。

■内容(「BOOK」データベースより)
32歳になっても幼児なみの知能しかないチャーリイ・ゴードン。そんな彼に夢のような話が舞いこんだ。大学の先生が頭をよくしてくれるというのだ。これにとびついた彼は、白ネズミのアルジャーノンを競争相手に検査を受ける。やがて手術によりチャーリイの知能は向上していく…天才に変貌した青年が愛や憎しみ、喜びや孤独を通して知る人の心の真実とは?全世界が涙した不朽の名作。著者追悼の訳者あとがきを付した新版。

■著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
キイス,ダニエル
1927年ニューヨーク生まれ。ブルックリン・カレッジで心理学を学んだ後、雑誌編集などの仕事を経てハイスクールの英語教師となる。このころから小説を書きはじめ、1959年に発表した中篇「アルジャーノンに花束を」でヒューゴー賞を受賞。これを長篇化した本書がネビュラ賞を受賞し、世界的ベストセラーとなった。その後、オハイオ大学で英語学と創作を教えるかたわら執筆活動を続け、話題作を次々と発表した。2014年6月没。享年86

小尾/芙佐
1955年津田塾大学英文科卒、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

 

≪他開催レポート≫
1/7の開催レポートを書いて下さり、ありがとうございます!こちらにリンク貼らせて頂きました。

momomotokazuさん開催レポ

良かったら遊びに行ってみてくださいね。
他にも書いて下さった方はご連絡頂けると嬉しいです。こちらに随時掲載させて頂きます。

 

≪1/7午前の部・開催レポート≫
午前の部の開催レポートはこちらでございます。

 

≪次回開催予定≫
ご予約・お問い合わせは開催日程(https://iro-doku.com/schedule)よりお願い致します。

 

★2月11日AM・大阪(午前の部)
開催日:2018年2月11日(日)
受 付:10:00~10:20
時 間:10:20~11:40
定 員:8名
形 式:推し本披露会(オススメ本を持ち寄って紹介)
持ち物:紹介したい本一冊以上、飲み物
参加費:1,500円(当日現金払い)
場 所:オックスフォードクラブ

 

★2月11日PM・大阪(午後の部)
開 催 日:2018年2月11日(日)
受  付:13:00~13:20
時  間:13:20~14:40
定  員:8名
形  式:課題本
参加条件:課題本の読了
課 題 本:アルジャーノンに花束を/ダニエル・キイス
持 ち 物:課題本、飲み物
参 加 費:1,500円(当日現金払い)
場  所:オックスフォードクラブ
※未定だった課題本ですが、「アルジャーノンに花束を」で決定しました。

※お飲み物は各自持参でお願いします。

※予約フォームを送信後に自動返信メールが届きます。その後、2~3日以内に予約完了メールを送らせて頂いております。数日経っても返信がない場合はブログにコメントやTwitter等の方法で連絡をお願い致します。お手数おかけします。(自動返信メールは来ない場合もあります)

★午前・午後どちらもお申し込み頂いた方へ
11:40~13:00も部屋は使用出来ます。午前の部が終わった後にランチしながら交流しましょう。弁当をご用意下さい。コンビニ弁当やパン等でも問題ありません。(アルコールは不可となっております)強制ではありませんので、外食しに行って頂いても構いません。午後の部の受付時間内にはお戻り下さい。よろしくお願い致します。

 

彩ふ読書会では本が好きな人同士の交流、居場所作りを目指しております。2、3回と参加して頂くことで少しずつ自分にとって居心地の良い場所になっていくのではないかと考えております。また是非ご参加頂けたら嬉しい限りでございます。

・・・・・・そういえば一つ思い出した事がございます。日本ではメイド喫茶なるものがあるようでございますね。英国暮らしが長いものですから日本の文化には疎いもので、つい先日そのようなものがあるということを知りました。執事としては非常に参考になる情報でございました。午前の部の開催レポートを上げてくださった方が、2回目にしてホームグラウンド感を感じてくださったようで大変嬉しく思っております。ジョークの研究もでございますが、本業である執事についても、やはり追求していくのが当然のことといえましょう。2度3度とお会いした方々には、やはりこの言葉を贈らねばなりますまい。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様」と。

 

完、でございます。