暗黒時代を語る時がやってきた⑦

実生活でたまに小説のシーンが浮かんでくる時がある。似たような経験をしたり、似たような感情を抱いた時だ。

私の中で度々出てくるのは村田沙耶香さんのコンビニ人間。これは東京での課題本読書会を機に読んだのだけれど、私にとっては色んな場面で「自分はコンビニ人間だなあ」と実感するようになった。

ハーモニーが浮かぶ時も多い。こちらも課題本読書会を機に読んだのだけれど、仕事で障害のある方々と接していると、「ここはハーモニーの世界だなあ」と思ってしまう。ジョージ・オーウェルの一九八四年も同様だ。制度や思想が作られていく過程で障害のある方々の世界はハーモニーや一九八四年の世界だと感じてしまうのだ。重度であればあるほど。福祉として仕事として携わる人間が、これを障害のある方々と共に覆すのはなかなか難しい。新しい風=外部からの介入は常に必要だと感じている。でなければ感覚が麻痺してしまって分からないからだ。

舟を編むの西岡が浮かぶ時もあれば、こころの先生が浮かぶ時もある。そんな風にふと思い出せる作品は、読んだ冊数の割合からいうと案外少ない。自分の中で共感あるいは衝撃を受けなければそうならないからだ。ただし、傲慢と善良にも度々出てくるが、ピンとこないのは私自身にも問題がありそうだ。こちらのセンサーを高めれば、もっと色んな本から吸収出来ることもあるだろう。私は私自身の感受性を豊かにしていこうとしている真っ最中である。再読したら心にヒットした、という作品もちらほらと出てきたので、これからも色んな作品に触れて色んな経験と照らし合わせられるようになっていきたい。

 

先日、辻村深月さんの「傲慢と善良」を読んだ。

推し本披露会で紹介された本で、紹介内容を聞いてるうちに「読みたい!」というよりも「読まなきゃ!」という衝動に駆られたものだ。コンビニ人間やハーモニーと同じように、度々思い出してしまいそうな作品だったのである。賛否両論分かれそうな気もしたものの、私は登場人物の心情がかなり繊細に描かれているなと感じた。

以下、推し本紹介ではネタバレをしなかったが、こちらではネタバレしていこうと思う。ご注意を。

 

 

 

 

 

 

――――――――――以下ネタバレ含む―――――――――――

 

 

 

 

 

 

忽然と姿を消した恋人・真実の行方を探す中で、架は彼女の過去を知る人物たちと出会っていく。彼女の周りの証言をもとに彼女の過去を知るのが大まかなストーリーだ。ミステリー要素もあるが、その実、二人の男女を通して恋愛の中で感じる傲慢さと善良さを描いているなと私は感じた。

架は真実と出会う前、アユという女性と付き合っていた。早く結婚がしたいアユと、そこまで結婚を意識していなかった架。二人は結婚観の違いから別れてしまう。この部分からして私は非常にグサッと刺さった。 架の傲慢さが昔の自分自身と重なったのである。

アユと別れた後、架は婚活アプリを使って真実と出会う。その他にも色んな女性とやりとりをしているのだが、やりとりが続いたのが真実だった。途中で婚活と就活は似ているという文章が出てきて、なるほどなと思った。十八世紀末から十九世紀初頭のイギリスの田舎での結婚事情が分かる「高慢と偏見」を引き合いに出し、現代の結婚がうまくいかない理由は「傲慢さと善良さ」にある、と語られている。109ページ辺りの小野里さんの言葉は特に抉られる。「ピンとこない」の正体も腑に落ちる部分があった。自分につけている値段と釣り合うかどうか。皆、一人一人の中に傲慢さと善良さが潜んでいる。

私が特に引っかかったのは、真実の母親・陽子だった。だからこそ、推し本紹介ではなく「暗黒時代を語る時がやってきた」シリーズで書いているのだけれど、ずーっとひっかかったのが母親だった。

陽子と父親についての描写で129ページにこんな事が書かれている。

この人たちは世界が完結しているのだ。自分の目に見える範囲にある情報がすべてで、その情報同士をつなぎあわせることには一生懸命だけど、そこの外に別の価値観や世界があることには気づかないし、興味もない。

親たちがその狭い常識で生きてきて、これからも生きていくのはそれでもいい。けれど、親だからという理由だけで、それを自分にまで押しつけられるのは辛くはなかっただろうか。

私自身が田舎を出たいと感じていた頃を思い出した。真実の母親や、真実自身が結婚相談所で会った金居という男性の描写が私にはリアルだと感じた。これは息苦しい。

傲慢と善良を読みながら、私は初めて女性とお付き合いした時のことも思い出した。当時の私はなかなかなブラック野郎で、今とは全く違う性格をしていた。

私は恋だとか愛だとかってやつが今いち分かっていない奴である。恋愛自体に興味がないまま育ち、テレビゲーム三昧な日々を送っていた。田舎での真実が自分自身で選択してこなかったように、私も流されるままに同じ生活を繰り返していた。今思えばゾッとする話だが、当時は考えるということをしてなかったため、それが普通だと思っていた。普通に大学に行って、普通に仕事して、普通に結婚して、普通に子供が生まれて。周りと同じ価値観でそう思っていたのである。

ちょっとした違和感を抱く時はたびたびあった。けれど、あらゆるものを捨ててまでその違和感を追求しようとするかと問われれば自信はない。もし仮に高校卒業以降も地元に残っていたら、年齢を重ねれば重ねるほど違和感の追求をすることはしなくなっていっただろう。結果的に高校卒業を機に私は田舎を出たが、出ていなければ真実だったかもしれないし、金居のような人生を送っていたのかもしれない。それでも私はそれなりに幸せを感じていたとは思う。そもそも幸せという事を考える事自体がなく、人生を終えていたかもしれない。田舎全てを否定する気はないけれど、私自身は田舎を全否定することでしか、当時あの環境から抜け出せなかったのは確かだ。

 

「田舎を出る」という事を決意してからは、色んな事がダメだと感じるようになった。それまで何となくこれで良いや~と思っていた事に対し、何とかしないと!と焦り始めたのである。その一つが童貞である事だった。童貞であることに急に恥ずかしさを覚えたのである。新たな場所へと向かうのにこのままではダメだと強く感じたのだ。

じゃあどうやって童貞卒業するのか。どうしたって一人では卒業出来ない。相手が必要だ。

当時働いていたバイト先に同い年の女子がいた。私はその子と付き合えないかと思った。しかしやり方が分からない。私はバイト先の先輩に相談した。昔はヤンキーだった先輩だ。結婚もしていて子供もいて丸くなっていて、親身になってくれる頼もしい先輩だった。怒る時はかなり怖い。おう、なら話しかけて来いよ、と先輩から背中を押されて私はバイト中頻繁に話しかけに行くようになった。電話番号とメールアドレスを無事に交換し、それからは個人間でのやりとりとなった。

以前の記事にも書いたように、私は恋だとか愛だとかがいまいち分かっていないやつである。無論「良いな」と思ったから付き合いたいと思ったのだけれど、それまで話した事もほとんどない人だった。ただただヤりたかっただけなのが本音である。誰でも良かったわけじゃないけれど、誰でも良かった、というニュアンスの相手であった。

大阪へと行くまでの時間も限られている。私は一人焦りながらも毎日連絡を取り合い、そして見事卒業した。童貞卒業直後にありがちな万能感を携えて私は大阪へと旅立った。

自分自身でも反吐がでるほどクズ野郎だった。私は彼女とデートを重ねていったけれども、彼女自身を見ていたわけではなかった。ほぼほぼ自分の事しか考えていなかったのだ。傲慢、という言葉を過去の自分自身に捧げたい。

別れる際、私は理由として「飽きた」「冷めた」という言葉を使った。大分ひどい言葉を使ったもんである。今の私ならそんなひどい言葉を使うことはないだろう。電話かメールで告げた後、彼女と直接会って近所の公園で座り込んで話したのをすごく覚えている。

彼女は私と一緒に大阪まで行くとまで言ってくれていた。付き合った期間としては三ヶ月もなかったくらいの彼女が、だ。地元とを天秤にかけて私を選んでくれるなんて今でも相当すごい選択だと思う。まさかそこまで言われるとは思わずかなりグラついたものの、言葉上はすっぱりと断った。私が別れたいのは彼女ではなく、田舎そのものだったからだ。前述したように自分しか見えていなかったのである。私の決意は固く、彼女もキレるような事もなく諦めた。私も彼女もほとんど喋らなかった。この時の空気感はご想像にお任せする。たまたま猫が通りがかったので撫でていたら家に帰って目が腫れ出した。あれは罰だったのだと私は思っている。傲慢さへの罰。しかし、そう感じるのは大分あとになってからである。私はこの後二年間、痛々しい時代を迎える事になるのである。

 

ところで、傲慢と善良を読んでいる間、彼女の名前・真実をたびたび「しんじつ」と読んでしまう事があった。辻村深月さんのインタビュー記事などを読んでいないまま書いているので間違っていたら申し訳ないが、彼女に真実という名前もつけた事にも意味があったのではないだろうかと感じながら読んでいた。

真実はどこにいる?真実の真実の姿はどこにある?真実を通して、いくら他人が言葉を重ねても本人の姿が映し出されるわけではないのだと、そんなテーマが名前に隠されているような気がしたのだった。

あと、192ページの金居の妻の視線にゾッとした。架を通して、自分の夫を振った女と張りあう・・・・・・ひいええええええ!そんな描写が随所にあって女子ってコワイな~と。私には耐え…・・・・・・耐え・・・・・・もっと頂戴!もっともっと!

253ページからの急展開もやはり面白い。

何せ色々と感じる傲慢と善良。オススメです!

 

いやはや、初めての彼女の事は書くつもりはなかったのだがついつい書いてしまった・・・・・・(^_^;)傲慢と善良、恐るべし・・・・・・!

そして既に第七弾まで行っているのにまだまだ暗黒時代のネタが多い事に自分自身も驚いている。このシリーズはまだまだ続きそうだ。