「エロに目覚めたのって、いつ?」
それは嫁からの唐突な質問だった。つい先日のことだ。私は動揺した。そのタイミングでおっぱい記事を投稿していたからである。
おっぱい記事を読んでの質問だったならば、私は一晩寝かせておきたいなと思った。勢いで書いているものがほとんどなので自分でも投稿した瞬間は結構ドキドキしているのだ。いつも夜中の0:01に予約投稿しているものの、予約しておきながら毎回しっかりその時間には起きてチェックをしてホッとして眠りに入っているのだった。
そんなルーティンに唐突に殴り込んできた「エロに目覚めたのって、いつ?」という質問。私のルーティンはもろくも崩れ去った。まるでベッドの下に隠していたエロ本を突きつけられて「ネタはあがってんだよ!白状しな!」と詰問されているかのような羞恥感。私は激しく動揺した。浮気がばれるよりも追い詰められている!浮気したことないけど。
何かしらの意図があるのかと思わず勘繰ったものの特に何もなかった。質問に答えると「ふーん」と言って嫁はパソコン作業に戻った。結局何だったんだ。
まあ話としてはそれで終わりなのだけど、そういえば自分がエロに目覚めたのはいつだったか。改めて思い出す機会となったのは確かである。まあR関係であえて実年齢はぼやかしておこうと思うが精神年齢だけでもお伝えしておこうかボク3歳!
一番印象に残っている古い記憶はダイヤルアップ時代だ。あー、って声が一部から聞こえてきそうだ。私の年代的には少し早い方なのだが、父親がワープロやパソコンなどの使い方を教えてくれたのもあり、よく父親のものを使わせてもらっていた。
今はネットでポチポチーッとすれば当たり前にパパパパーッと即座にページが表示されるけれども、このダイヤルアップ時代はとにかく回線が遅かった。画像を表示させるだけでもかなり時間がかかるのだ。パッと表示されるのではなく、画像は上から少しずつ表示されていく。投げ出したくなるような遅さだが、私は待った。ひたすら待ち続けた。そこにある未知の世界を知りたい欲求が半端なかったからだ。焦らされれば焦らされるほど気になってしまうのは当然かもしれない。
それから数年後、私は自分のパソコンを手に入れた。ネット環境もダイヤルアップ時代は終わりを迎え、かなりの早さになった。光の早さでエロ画像を漁ったのは言うまでもない。
しかし、具体的にいつどの瞬間にエロに目覚めたのか。よくよく考えてみてもよく分からない。おっぱいへの目覚めは「おっぱお事件」だと判明しているが、エロへの目覚めというと具体的なエピソードがなかなか浮かばない。多分じわじわと目覚めていったのだとは思うが、ここら辺はまた自分自身を探っていってみたい所だ。
ところでエロ画像を漁っていた時、事件が起こった。別のウィンドウが勝手に開き始めたのだ。1つ、2つ、3つ……とパパパパッとウィンドウが開かれていき、私はかなり焦った。閉じるを押したら消えるものの、消しても消してもまたウィンドウが開いていくのだ。やばいやばい!と焦って結局コンセントを抜いて強制終了した。しばらくして再起動したら何事もなかったのでホッとしたのだけれど、血の気が引いたのは実はそのあとである。
初の家族会議が開かれた。
メンバーは父と母と弟と私の四人だ。一体何事だろうと思っていると、父親がテーブルの上にそっと一枚の書類を置いた。目を通した私はこの時血の気が引いた。
請求金額、五万円。
そう、架空請求がやってきたのである。この請求書は郵便で届いていたので、真っ先に気づいたのは母親だった。母親だけでは処理出来ず、父親に相談。ついでに弟も呼ばれての家族会議という流れだった。
父は私に心当たりがないか尋ねた。私は今ほど嘘が上手くなかった。黙秘権を使ってみたものの、ただただ時間が過ぎるばかり。時間がもったいない。こんな風に時間を費やすならば一枚でもエロ画像を見たいと懲りずに思っていたのだった。
父親との沈黙が続く。間にぽつりぽつりと質問され、私がしらを切る。そんな時間を過ごしている内にだんだん腹が立ってきて私はキレた。
「何が悪いんや!」
反抗期が始まりを告げた。
ただの逆ギレであるが、息子の怒声に両親ともに驚いていたようだった。しかしそこはやはり二人とも大人。私は軽く諌められた。それがなんとも更に腹が立って、私は越えてはならない一線を越えてしまった。
「父さんもエロ本読んでるじゃん!」
父、まさかの飛び火である。
私はずっと前から父親の仕事机の引き出しにエロ本が大量にあることを知っていた。鍵はもちろんかかっているのだが、私は鍵のありかも知っていた。知ってはいたけれど、私はこの秘密を墓場まで持っていくつもりでいた。そう、この時までは。窮鼠猫を噛むっちゅーやつだ。
やぶれかぶれの告発だったが、これが意外と功を奏した。攻守交代。会議は更に紛糾した。架空請求から始まった会議は父親のエロ本話となり、今度は父親が狼狽えた。黙秘権を行使する父親の前に私は父愛用のエロ本を並べた。ネタはあがってんだよ!白状しな!ってやつである。
もしも郵便物に気づいたのが私か父親だったら、こんなことにはならなかった。互いに紳士協定を結ぶだけで済んだのだ。しかし、もう遅い。会議は踊る。されど誰も得しない会議。私も父親もデリケートな部分を無闇に傷つけてしまっただけの会議だった。それ以来、家族会議が開かれる事は一度もなかった。最初で最後の家族会議であった。
ちなみに架空請求については後日父親が払うこととなった。会議の場でうやむやにも出来たし結局得したのは私だったのかもしれない。父親が一番の悲劇だ。
ところでそのあと私は出会い系サイトを試しに使ってみた事がある。相手とのメールのやりとりにポイントが必要なやつだ。ほんの好奇心で登録してみたらメールがばんばん届くようになった。開いて読むとお金がかかる。初期登録のポイントはすぐさまなくなり、あとは課金する必要があった。私は夜中も鳴りやまないメールを無視していたものの、さすがに耐えきれなくなってアドレスを変えた。アドレスを変えたら何とかなったものの、つくづく懲りない奴である。
完