暗黒時代を語る時がやってきた⑤

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「ごめん!屁こいた!」

と、突然女子からカミングアウトされる機会があった。

私は彼女にときめいた。

普通は何だこいつぁやばいぜ!って思うかもしれない。けれど、そこはやはり私なのである。変態なのである。むしろ大好物なのである。

 

 

20代前半の頃、コールセンターで働いた事がある。一ヶ月だけの短期バイトだ。表情が分からないので電話はかなり苦手なのだが、前職でもひたすら電話対応をしていたので経験を活かせると思ったのだ。

短期バイトで集まったのは10人くらいだった。1ヶ月間ではあるものの週5日勤務で顔を合わせることになるため、初日に自己紹介を行った。主婦やフリーター、大学生などが集まっていた。

その中で私が気になった女性が冒頭の屁こき女子であった。彼女はギャルだった。ちょーかわいかった。マジ卍。うぇーい!ちょべりぐう!私は気になる人ほど目で追ってしまう傾向があるのだが、初日から彼女に熱視線を送っていた。どう仲良くなったかは覚えていないけれど、いつの間にやら仲良くなっていた。10人いるなかで同じような空気感を漂わせていたのは私と彼女だけだったので、互いにそれを感じ取っていたのかもしれない。

仕事の方は目論み通り前職の経験が役に立った。内容としては、こちらから既存のお客さんに電話をかけて新たなサービスのご提案をするというものだ。興味を持って頂けたら、営業担当が改めて連絡して自宅へ赴き契約を交わす。最初の取っ掛かりの部分を行うのが私たち短期バイトの面々だった。電話がかかってくる方からすればうっとおしいものではあるけれど、既に他のサービスで契約をしているお客さん相手だったので、そこまで無下に断られることはなかった。とはいえ、初心者の方々はやはり苦戦しているようだった。私は前職でメンタルを鍛えられていたのか、既に心がどこか壊れていたのか、電話をかけて断られても屁のかっぱだった。屁の話だけに。

二週間ほど経つと、皆自分の力量も分かってきていた。営業担当に繋ぐ事が出来れば私たちの仕事としては成功なのだけれど、なかなかそれが出来なくてしんどさも出てくる。三週間ほど経つと、あともう少しで期間も終了ということでダレてもきていた。手を抜く人たちは手を抜いていた。

最初の頃はそれぞれが電話をかけていたので常に賑やかだったのだが、シーンとなる機会もだんだんと増えてきた。私といえば契約をとってやろうとやっきになっていて、ひたすら電話をかけていた。具体的な金額は提示されてなかったけれど、基本給にプラスして能力給というものがあったからだ。コツがつかめてきて、後半の方が営業担当に繋ぐ回数が多かったってのもある。要は楽しくなってきたのだ。

周りにダレた雰囲気が漂う中、冒頭の屁こき女子も手を抜くことなく奮戦していた。奮戦しすぎていたから屁をこいてしまったのかもしれなかった。手は抜かなかったが屁はこいていた。

向かい側に座っていた彼女が突然私の席にまで近づいてきた。静けさ漂う中で、こっそり私にだけ「ごめん!屁こいた!」とカミングアウトしてきたのだった。近くにいておならの音が聞こえていたかもしれない私にだけ、声をかけてきたのである。

彼女はおならを放出したあと色んなことを考えたに違いなかった。誰にも聞こえなかっただろうか?誰かに聞こえていたとしたら、ごまかせるだろうか?においは大丈夫だろうか?色々と考えた挙句、もういっそ自分から言っちゃえと判断したように思えた。その悩んでいたであろう時間を想像し恥じらいを感じ取った私はついついときめいてしまったわけである。

女性に恥をかかせることは私のポリシーに反する。

「ごめん!屁こいた!」と一見あっけらかんと振舞う彼女に対して、私はどうすれば彼女がこれ以上恥をかくことなく過ごせるかを考えた。例えば犯人が分からない状況だったならば、私があえて屁をこいたと告白して犠牲になることも出来よう。しかし、既に本人から告白されてしまっている手前、その方法をとることは出来ない。他に何か方法はなかっただろうか?私は頭の中にある「モテる男はこう振る舞う!モテテクベスト50」の中から脳内検索した。結果、テンションを彼女と同じレベルにまで引き上げることにした。「えー!?まじでー!」と明るいノリで対応した。誰に対してもこの対応が合っているのかどうかは分からないが、少なくとも彼女はそれでホッと安心したようだった。彼女は「ほんまごめーん!」と言ったあと、笑顔で席に戻っていった。どうやら無事、紳士的に振る舞えたようだ。満足満足。

 

 

 

 

 

 

 

 

私はすぐさま残り香を探した。無臭だった。悔しくて舌打ちした。

 

 

 

 

 

 

 

一ヶ月の短期バイトが終わった後、一度ご飯を食べに行ったけれど、彼女とはそれきりだった。彼女は今どこで何をしているのだろう?まあ、きっとどこかでまた屁をこいているのだろう。久しぶりに会いたいなと思うものの、今では連絡先が分からなくなってしまった。え、私の事かも?と心当たりのある方、こちらまでお問い合わせ下さい(アドレスは載せない←)