久しぶりにA駅で下車した。

今の生活になってからというもの、とんと降りる機会のなかった駅だ。

近くに用事が出来て最寄り駅を調べた時、A駅が一番近いと知った。A駅という駅名を見ても、その時はピンと来ていなかった。けれど当日、駅に近づくつれて急に記憶が蘇った。

・・・・・・そういえば、十年前はよくここに通っていたんだっけ。

匂いを思い出し、景色を思い出し、エピソードを思い出した。

ここは、僕が弟子仲間達と通っていた道だ。

その時に居たのは僕を含めて五人。二人は既に小説家としてデビューしているお弟子さんで、一人はデビュー間もないお弟子さん。そしてまだデビューするには至っていない僕ともう一人。

何を話していたのかは覚えていない。正直、そのお弟子さん達の顔すらも覚えていない。けれど、その時の景色やシルエットだけは覚えている。ここを歩いたっけ?ああ、そうそう。ここだったここだった。歩きながら記憶が蘇ってくる。

もう少し歩けばお師匠さんの家だ。特に用事もないし急に行ったら驚かれるだろうし、会わせる顔もないしので会いには行かないけれど、何だか急に懐かしくなった。

「お師匠さん」とは僕が勝手に呼んでいるわけではなく、本当に一時期師匠と弟子という関係になった方だ。厳しい方だったので褒められた事はほとんどない。

・・・・・・元気にしてるかな?

なんて思った。こんな風に思える自分にびっくりだった。

当時の僕は全くもってダメダメで、皆から「大丈夫か?」と心配されるレベルで。僕自身は「大丈夫!」と根拠のない自信だけは沢山あって、希望にも満ちていた。

思えばその頃から普通っぽい生き方は選んでなかったわけで。普通になろうとするにはそれなりに時間がかかった。沢山のツケがあった。

今は普通っぽい生活を送るようになった。でも、何か違うなって思いながら生きてきて、結局普通という枠からはみ出そうともがいている自分がいる。全てを投げ出したい気分と、安定を望む自分とが、ずっと、せめぎ合っている。それでも日々は過ぎていっていて、僕は結局流されるまま生きている。全てを投げ出すにはかなりのエネルギーと決断を要するくらいには、抱えるものも多くなったし、これからも多くなってくる。楽しみと不安が半々。

・・・・・・そんな事をふと思ったのは、先日たまたまテレビをつけたらアナザースカイがやっていて、今田耕司が西成区を歩いていたのを見たからだ。今田耕司といえば今や知らない人はいないんじゃないかってぐらい有名な芸人さんだ。彼にももがいていた時期があった。特に思い入れのある芸人さんではなかったけれど、番組を見ていると今田耕司が好きになった。そして中条あやみの可愛さに度肝を抜かれた←

今田耕司のような人気者ではなくても、僕にも色んな思い出の地がある。

生まれ故郷もだけれど、大阪で初めて住んだ土地、それから何回か引っ越しをしているから、色んな土地で生活してきた時の事。それぞれの時期がチャプター的に分かれて記憶になっている。色んな事があったなあ。ゲームセンター破産事件、遊戯王破産事件、梨にハマって食べ過ぎ破産事件・・・・・・あ、ハマりすぎて散財した記憶しか思い出せない(笑)僕は何かにハマると「宵越しの金は持たねえ!」主義となりひたすら散財してしまうのだ。けれど、それも今となっては良い思い出だ。

自分がこれまで通ってきた道を一度辿ってみたいなあなんて思った。あの時に存在していた場所へ行き、その時の自分を思い出してみたい。もちろん、過去に戻れるわけはないのだけれど、あの時の景色を今見たらどう感じるのだろうか。なんて事を思ったりもする。振り返るにはまだ早いとも思っているけれど。

 

 

お師匠さんの家の前は通らず別の道を選んだ。今日の目的地へ向かう。

この道の先にも新たな出会いが待っている。僕がそう感じているように、相手も同じようにきっと何かしらの期待を感じているはずだ。

色んな道を歩んできた方々が一箇所に集まり、しばしの時間を共有する。そして、それは新たなエピソードとしてそれぞれの記憶に残っていく。その思い出は、もしかすると十年以上経ってから思い出す機会があるのかもしれない。それも面白いな、と思った。色んな道を歩んでいる人たちが、ちょっとした時間だけでも共有出来るのだ。それから別々の道を歩もうとも、その時その時間を共有出来たこと自体に価値があると僕は思う。

そして、もしその道がまた交錯することがあったら、それもまた面白い。

人生何が起こるか分からんから面白い。

僕の道にはこれから何が待っているのだろう?